【♡二人の前日譚を特別公開♡】騎士団長(夫)の仕事は私が裏で片付けるので定時後は嫁を愛でていただきます!
2026.08.27 (Thu)
嫁大好きエリート騎士団長×天才⁉︎魔法使い令嬢、
ふたりが夫婦になる前のココだけのお話♡
<騎士団長の求婚>
騎士団の詰め所にて、ロベルトは頭を抱えていた。
この国の治安維持を一手に引き受ける守護騎士団。その第一騎士団を束ねる彼の頭を悩ませる問題など、国家存亡に関わる重大案件しかありえないはずが……今回ばかりは別だった。
「アリア……アリアからの返事が一向に来ない……」
とある夜会で、ロベルトはひとりの女性に出会った。
そしていくつか言葉を交わし、そのまま求婚してしまった。
数々の見合い話を断り続けてきたロベルトが、弱小貴族のひとり娘……しかも婚約破棄されたワケありご令嬢にアプローチしたというのは、すでに広く噂になっているらしい。
(それがどうした。あの方が俺の運命の人だ。間違いない。だが、あんな衆目の前での求婚は軽率だったかもしれないな……はっ!? ひょっとすると気を害してしまわれたやも……から返事が来ないのか!?)
プロポーズから十日あまり。
ずっと返事を待ち続けているのだが、一向になしのつぶてだ。
ロベルトの頭の中で、アリアがぷいっとそっぽを向く姿が再生される。
つれない彼女も素敵だ。だがしかし、ロベルトの弱り切った心臓は甚大なダメージを受けた。
(うおおおお……! 俺は、俺はいったいどうしたらいいんだ……!)
そんなふうにして悶々としていると、がちゃっと詰め所のドアが開く。
顔を出したのは部下のオスカーだった。今日も今日とて爽やかな笑みを浮かべた青年は、大量の封筒を抱えていた。
ロベルトは頭を切り替え、騎士モードのキリッとした顔で彼を出迎える。
「騎士団宛ての書類か。ご苦労」
「いえいえ、事務所に寄ったついでです。団長宛ての郵便もありますよ」
「どれ、貸してく……アリアっっ!?」
「うわっ。なんすか急に」
封書の山の中には数々の有力貴族や、国家機関からのものが多かった。
その中からたった一枚をひったくる。薄い封筒にはアリアと、その後見人である叔父の名がたしかに記されていた。
ロベルトはそれを両手で高々と掲げ、心の底から天に祈った。
「やっときた……! アリアからの手紙だ!」
「それってひょっとして、団長が泥酔してプロポーズしたご令嬢っすか?」
オスカーが散らばったその他の手紙を拾い集めながら苦笑する。
「酔っ払いのたわ言にもちゃんと返事をくれるなんて、律儀な人ですねえ」
「バカを言え。あのときは素面だった」
「は? じゃあマジであの堅物団長が女性にアプローチを……?」
信じられないものでも見るかのように、オスカーが目を丸くする。
そんなことにはおかまいなしだ。ロベルトは震える手で手紙を開く。
手紙は二枚あった。一枚目は叔父のハイザン卿からで、求婚を受ける旨が書かれていた。
形式張った文体ではあるものの、公爵家との婚姻を心の底から喜ぶような打算的な気配が感じられた。
そしてもう一枚はアリアからのものだった。
『ロベルト様からのお気持ち、謹んでお受けします』
それを読んだ瞬間、ロベルトは膝から崩れ落ちた。
「っっ……!」
「どうしたんですか団長!?」
オスカーが慌ててロベルトの体を支えてくれた。
彼は鋭い目でアリアからの手紙を検分する。
「団長が倒れるなんて毒物……いや、精神汚染系の魔法か。ちっ、早く魔法医に診せないと――」
「い……」
「い?」
「生きていてよかった……!!」
「……はい?」
ロベルトが万感の思いを吐き出すと、オスカーがぽかんとして固まった。
そんな部下などやはり放置して、アリアからの手紙をもう一度読み返す。
そこには見間違えなどではなく、確かに結婚を了承する旨が記されていた。ロベルトは高らかに快哉を上げる。
「オスカー聞いてくれ! アリアが、アリアが私からのプロポーズを受けてくれたんだ!」
「はあ。まあ、相手は田舎の弱小男爵家なんでしょ。国内有数のボンボンからの求婚ならそりゃ当然――」
「つまり俺はアリアと結婚できるんだ! すごい! 神よ、世界よ、ありがとう!」
神などそれほど信じていなかったが、このときばかりはロベルトは心の底から祈りを捧げた。
世界はいつもより彩度を増して、すべてがロベルトとアリアを祝福しているようだった。全身に力が漲って、
今なら竜でも片手で打ち倒せそうな気さえする。
「団長……」
そんなことを熱弁すると、部下はやけに優しい顔でぽんっと肩を叩いてくる。
「とりあえず一度やっときましょうか、尿検査」
「素面だと言っているだろうが!」
もちろん薬物検査は陰性だった。この国に脳内麻薬を取り締まる法は存在しないため。
オスカーは納得できないような渋い顔をしつつ、ロベルトのことをじろじろと見つめる。
「つまり本当に素面……? どうしちゃったんですか、団長。団長といえば典型的な堅物仕事人間のはずだったじゃないですか。おかしなものでも食べたんですか?」
「ふっ……もちろん食したとも。恋という禁断の実をな」
「だめだこりゃ。重症だ」
お手上げとばかりにオスカーは肩をすくめつつも、恐る恐る尋ねてくる。
「でもいいんですか? たった一度だけ会った人なんでしょ?」
「む……確かに」
ロベルトはあごに手を当て思案する。
「俺の方は全然構わないんだが、アリアは思うところがあるかもしれないな」
「いや俺は団長の方も心配なんですが……主に頭の方が」
オスカーはもごもごと何事かを呟くが、ロベルトの耳には入らなかった。
ふたたび手紙に目を落とす。そこには確かに求婚を受ける旨が書かれていた。だがしかし、それに合わせて気になる文言も添えられていた。
『ロベルト様とは一度お目にかかったきりですし、私を選んでくださった理由も分かりません。だからもう少しお互いのことを知れたらうれしいです。よろしければこれからお手紙でやり取りいたしませんか?』
淑女らしいか細い文字。だがしかし、そこからかすかな不安が読み取れた。
彼女の言うことももっともだ。何が好きとか嫌いとか、お互いにそんなことすらも知らないのだから。家同士で取り決めた結婚なら自然だろうが、彼女のことをもっと知りたいし、自分のことも知ってもらいたかった。
「お互いを知る……か。なあ、どうしたらいい。手紙を書くだけでは不十分な気がする。ほかにも何かできないだろうか」
「独身の俺に聞かないでくださいよ」
オスカーは肩をすくめつつも、少し考え込んでから口を開く。
「一番いいのはプレゼントじゃないっすかね」
「プレゼント……だと?」
「初耳な単語みたいなリアクションやめてください。どんだけ疎いんですか。贈り物を喜ばない女性なんていませんからね。手紙のついでに何か添えたらどうですか」
「しかし何を贈れば……」
「花とかアクセサリーとか、流行りのお菓子とか、なんでもいいんですよ」
「なるほど、分かった」
ロベルトは噛みしめるようにうなずいて、オスカーの言葉を魂に刻んだ。
そしてすっくと立ち上がり、声高に宣言してみせた。
「午後からは有休を使う! 少し出てくるぞ!」
「は? ちょっと待ってください、あんたこれから会議でしょ!? どこ行くんですか!?」
こうしてロベルトは人生初有休を使用し、街へと繰り出した。
すべてはアリアへのプレゼントを探し求めるため。あれやこれやと見繕い、そのままの足で信頼できる業者に速達を頼んだ。愛する人を思って贈り物をするのは初めてで、それだけで心がぽかぽかと満たされた。
しかし三日後、詰め所を埋め尽くさんばかりのプレゼントの山に埋もれ、ロベルトはまたも頭を抱える羽目になっていた。
「どうしてアリアは受け取ってくれないんだ……!」
「あんたはやり過ぎなんですよ何もかも!?」
それにオスカーが怒声でツッコミを入れ、他の騎士たちが真顔でうんうんと頷いた。
オスカーは手近な小箱を開き、うげっと顔をしかめてみせる。
「こんな馬鹿でかい石の付いた指輪なんてどこで見つけてきたんですか。装飾品っていうより、脱税用の資産隠しアイテムっすよ。こんなの貢ぐなんてセルフロマンス詐欺でもやってるんですか?」
「ふっ、アリアになら俺は全財産を捧げても惜しくはないぞ」
「やめてください。ご令嬢がますます怯えます」
「なに。俺のアリアを脅かす者がいるというのか。八つ裂きにしてもまだ足りん。誰だそいつは」
「あんた以外にいませんよ」
「俺が、アリアを……!?」
ガーンとショックを受け、ロベルトはしょげてしまう。
どれもこれもアリアを思って選んだ品だ。そのせいで、少しばかり値の張る品が多くなってしまったのは理解している。だが、それがアリアを苦しませることになるとは思わなかった。
(俺は……ただこの気持ちを伝えたかっただけなのに)
そんな団長の姿を見て、オスカーならびに騎士たちは隅でこそこそと話し合う。
「団長がまさかあんなに恋愛方面でポンコツだったなんて……」
「なあ。この調子だと例のご令嬢に愛想を尽かされてもおかしくないぞ」
「そうなったら団長、一気に廃人化待ったなしだろうな……」
「この国の治安が終わりますね……」
それぞれしーんと黙り込んでから、重々しくうなずき合う。
騎士団の思いがひとつになった瞬間だった。
みな一様に優しい笑みを浮かべながら、ロベルトの肩を叩く。
「よし、団長。次のプレゼントは俺たちも相談に乗りますよ」
「手紙も添削に協力します」
「だからお気を落とさず! ね!?」
「おまえたち……!」
ロベルトが生気を取り戻したところで、騎士団総出のレクチャーが始まった。
結婚から半年後。
「……というわけで、騎士団総出で団長と奥様の文通をサポートしたんですよね」
「その節はたいへんお世話になりました……」
アリアはオスカーへと頭を下げる。
たまたま話す機会があったので雑談に興じたところ、旦那様の思わぬエピソードが飛び出してきた。
弱小貴族なら一発で破産するほどだったロベルトからの貢ぎ物が、
突然一般基準になった理由がこれでようやく分かった。
おかげでアリアも気負うことなくプレゼントを受け取ることができて、仲を深めるに至ったのだ。
(この結婚は多くの方々に支えられた結果なのね……)
人の温かさにじーんと感じ入るアリアだが、不意に後ろから引き寄せられる。ロベルトだ。
アリアを抱きしめながら、部下へと低い声で威嚇する。
「おいオスカー。俺の妻と何を談笑しているんだ。しょっ引かれたいのか」
「上司の奥さんと喋るのが何の法に抵触するっていうんですか」
「まあ、ロベルト様ったらヤキモチですか? 大丈夫ですよ、私にはロベルト様しか見えていませんから」
「アリア……! もちろん俺もあなたしか見えないとも……!」
「似たもの同士で何よりです。永遠にお幸せに~」
オスカーは投げやりに肩をすくめてみせた。
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【書誌情報】
書名:『騎士団長(夫)の仕事は私が裏で片付けるので定時後は嫁を愛でていただきます!』
著者:ふか田さめたろう イラスト:高瀬カロ
発売日:2026年10月2日(金)
定価:1,400円+税
判型:四六
ISBN:978-4-391-16856-3
〜あらすじ〜
夫婦の“初夜”は私の魔法にかかっている!?
子爵令嬢・アリアベルは、パーティーで1杯の水を渡し、どうやらエリート騎士団長・ロベルトからひとめぼれされたらしい!? 状況が飲み込めないまま、ロベルトの熱烈なアプローチの末、徐々にアリアは絆され、甘々な新婚生活が始まるはずだったが…。肝心の旦那様が仕事に忙殺されて帰ってこない!! 悩むアリア、項垂れるロベルト。そんな彼女にできることは、伝説の魔女に扮し彼の仕事を裏から助けることだった——!? 大好きな旦那様のため、ドラゴン、怪盗を仲間に加え、アリアは魔法を駆使し奔走する。嫁ひと筋のエリート騎士団長×天才!? だけど、魔法初心者令嬢のドタバタ溺愛ラブロマンスの開幕ですッ♡
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